目覚めよと呼ぶ声がするので   日高トモキチ


目覚めよと呼ぶ声がするのでまぶたを開けると自分は午前三時の路上に蹲っている。
おかえり。
おかえりと彼女が優しくつぶやく。
ああ、ただいま。と答えようとするが、うまく声が出ない。
にゃー。
にゃーと自分が鳴いている。

ばかだねえこんなになるまで。
しかたないね。
もういいから、ゆっくりおやすみ。
もうじゅうぶん、歩いてきたでしょうから。

にゃー。
(ここが私の帰る場所なのですか)

そうだね。
歩みが途切れたら、そこが道の終わりだから。

自分の前に道はまだ伸びているのに。
行く手はたしかに明るく照らされているようなのに。
行き着けなくても、明るさが確かめられたのなら、まあ、いいか。

この白い線はすこし曲がっているようだね?

おやすみ。
おやすみと声がするのでまぶたを閉じる。
次に開けたときはどんな景色が見えるのかな。

にゃー。
(おやすみ)






日高トモキチ
漫画家・よろずもの書き。既刊に『里山奇談』『里山奇談 めぐりゆく物語』(coco・玉川数と共著)ほか。